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竹中労的「選挙必勝法」?

またぞろ、選挙の季節がやってきました。衆議院を解散して野党から浴びせられる非難については耳も貸さず、対抗として野党第一党の民進党のスキャンダルが噴出し、さらに自民党よりも右側の思想の人が集まった「希望の党」に多くの議員が引き抜かれるなど、野党連合がガタガタになりそうな中、一気に解散総選挙を選んだ安倍自民党の動きというのは批判は大いにあるにしろまさに電光石火のごとく見事なものでありました。

このままでは自民党が議席を奪われるのは主に「希望の党」に限ってのことになるでしょうから、選挙の後の国会では「自民党」「公明党」に「維新の党」という今までの連合に「希望の党」が加わり、安倍自民党とは意見を異にする野党の言動は全く届かないほどに勢力を落とし、保守勢力は今まで以上に好き勝手を行なえる環境が整うでしょう。

そうなれば憲法は保守勢力の都合のいい方向にのみ向かって改正され、日本の状況はさらに反体制勢力にとっては厳しいものになっていくに違いありません。そうならないようにするには、今の世の中では選挙で勝つしかないのですが、具体的にどうすればいいのかということについては、すでに答えは出ています。

たまたま過去の竹中労さんの書いたものを読んでいたら、ちょうど当時の社会党が参議院選挙で「山が動いた」ことで大勝した後の体たらくについて書いた文章を見付けました(ダ・カーポ「テレビ観想」第十二回 夢坊主辻説法(2)社会党パチンコ政権のゆめ!?)。今回はその内容について紹介しながら、反自民勢力が早めに仕掛けた自民党に一泡吹かすためにはどうしたらいいのかということについて考えてみたいと思います。

まず、当時の社会党がその支持のよりどころにしていた「連合」との決別を勧めています。

(引用は上記ダ・カーポの連載からです。以下引用)
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少なくとも、労働組合のヒモツキであるかぎり、社会党は永久に半身不随の跛行を続けねばならない。戦後階級構造の変容に対応できず、若者の心を捉えるユトピアを描くこともできない。“革新”を保守する(誰のために?)、逆説的ジレンマに落ちこんでゆくのみである。
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(引用ここまで)

まず民進党が行なわなければならない事は、すぐには無理でしょうが、将来的に労働組合に頼らないという「しがらみからの脱却」であることは間違いありません。他の党が「連合」からの支持が欲しいならくれてあげればいいだけの事です。確かに組織からの支持は一時的な票数は伸ばしてくれますが、同時に組織が行なうことは、その見返りを党に求めることです。そんな形で民衆の必要とする政策より組織からの要求を満たしてしまうなら、やっている事は単なる利益誘導になり、自民党と変わらなくなります。

そして、多くの現政権に素直に政治をまかせられないと思った人の中には、議論の途中で強制的に話を打ち切り、強行採決と野党の人たちが呼んだような「多数決にこだわった政治決定」に不安をおぼえたのではないでしょうか。その後、多くの政権に対する疑惑について話を向けても、一切まともに答えようとしない中、疑惑は解決したとされてしまうのも同じような数の論理であると思えることも多いでしょう。

こうした強引な国会運営が許されるというのは、どれだけ少数の野党が抵抗しても、最終的に衆議院の多数を与党が占めていて、絶対に揺るがないという自信があるからに違いありません。そうなら、選挙で勝って数をひっくりかえすか、そこまで行かなくとも議員の数を拮抗化することで、野党が力を持つことであると言えるでしょう。

そんな中、もう一つ竹中労さんがおすすめしている選挙必勝法があります。この方法については羽仁五郎氏や大杉栄氏の言葉や書いたものまで抜き出して紹介しているので、かなり昔から言われてはいるものの、なかなか行なうことができない方法です。と言っても話は簡単なのですが、まずは竹中労さんはこの文章を書いていて目にした1989年の京都市長選挙の結果について触れています。

(ここから引用)
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例えば、京都市長選挙を見よ。社会党は単独で惨敗をした、衆議院でも枕を並べて討死? そりゃアベコベ、共産党こそ京都最強の野党、自民党に三百二十一票差まで詰めよったのである。
社共連合を組めば圧勝疑いナシ、民衆の選択は賢明であり、愚かなのは統一戦線をずっこけた地元社会党だった。
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(引用ここまで)

選挙の結果についてはインターネットで調べることができますが、その当時の選挙では9人が立候補していますが、まさに竹中労さんが書いている通り、共産党が推薦した木村候補を社会党が応援していれば321票というのはまさに誤差とでも言うべき差でもありますし、確実にこの選挙を勝つことができたでしょう。当時は同じ革新でも共産党とだけは組みたくないという感情を強く持った人が多かったのでしょう。しかし、そうした面子にこだわるような人達に党が支配されているのだとしたら、全てが市長選と同じ一人区である衆議院選挙で勝てるはずはないのです。

この点については竹中労さんは自らの言葉ではなく、羽仁五郎氏と大杉栄氏の言葉を紹介していますので、その言葉を紹介します。

(引用ここから)
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故羽仁五郎、かく語りき。「議会政治とは一種の賭博である。自民党を倒すことは簡単だ、選挙で最大の野党に票を集めれば、情況は一夜で変わる」「倒してからどうするだって? 愚問だよキミ、それはそのとき考えればよい」
(中略)
アナキスト大杉栄いわく、「統一戦線の綱領はゆいいつ、敵目標の一致であって、思想や主義の統制ではない」(トロツキー『統一戦線論』批判)。
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(引用ここまで)

2017年現在の状況は自民党の一人勝ちとなっており当時とは状況が違うものの、反自民の意見を持つ人が投票できる候補を全ての地区で作ることができなければ、対決にすらなりません。そういったことは、改めてここで書くまでもなく過去の小選挙区の選挙結果を見れば明らかで、こんなかんたんな「算数」が理解できないまま野党勢力を分断する形で候補者を擁立する党というのは、もし政権を取ったとしても「予算」の計算すら出来ないのではないかと皮肉の一つも言いたくなると言うものです。

今回の選挙について、直前に小池百合子氏を党首にいただく「希望の党」が出来、各政党から新党に移る人達が出て来たことは、かえって反自民を掲げる人達にとっては好都合に作用するのではないかと思っています。私自身は小池氏の人となりを詳しく知っているとは言えないかも知れませんが、たまたま見たテレビ番組での様子によって、どんな性格の人であるかということが、テレビの画面を通じて強烈に伝わってきました。

そのテレビ出演が面白かったのは、番組は生放送ではなく、後から都合が悪いと思っていればいくらでも訂正させることも可能なテレビ東京系の「開運なんでも鑑定団」で起こったエピソードであるということです。小池氏は自信満々にお気に入りのペルシャ絨毯を鑑定に出しました。希望価格こそ10万円と控えめでしたが、鑑定の結果として80万円と希望額よりかなり上がったのにも関わらず、鑑定をした人に延々とクレームを付け続け、納得しないまま鑑定のコーナーが終了してしまいました。この番組でこんなにごねて自説を曲げなかった人を見たのは初めてだったので、ちょっと番組を見続けるのがつらくなってしまったことを覚えています。

鑑定士の方の説明では、小池氏の持って来た絨毯はイラク王国がイランに発注して織らせたものではないかとの見立てだったのですが、鑑定前まで小池氏はこの絨毯はイラクで織られた珍しいものだと堂々たる主張をしていたこともあり、自分の見立てを全否定されたことに我慢がならなかったのだろうと思われます。

個人的には番組を見ていて、かなり評価額も高かったですし、正式な鑑定というよりもテレビのバラエティ番組の事なので、笑ってそのままありがとうございましたで終わった方がよっぽど有権者への印象も良くなったのではと思うのですが、この方はとにかく自分の意見と違った事を言う人を許せない人なのだなと感じました。ちなみに、私が見た放送は、地上波による本放送からかなり後に再放送されたBSでのものだったので、小池サイドが都合が悪ければ申し入れて再放送させなくする事もできたのではないかと思えますが、これも恐らく小池氏サイドは地上波のバラエティ番組での事だからと高をくくっていたのかも知れません。

ともかく、個人的には小池氏の人となりとして、他人の言う事はなかなか聞いてくれなそうな自分の好きな人物とお見受けしているので、今後の希望の党に参加した多くの議員も、小池氏が政界でのし上がるためのコマとして使われるだけではないかと、折角移ってきた方には悪いですがそのように思えてしまいます。

恐らく、このように考えても実際に反体制の戦いを実行できない可能性の方が今回も大きいのではないかと思っているので、残念ながら状況は悪くなることはあっても良くなることは考えにくいでしょう。ただしっかりと基本を抑えて反体制の戦いを律儀に行ない続けることで、状況は変わってくる可能性はあります。そんな先人の知恵を生かすことは今後実現できるのでしょうか。

(2017年9月28日追加)

ここ数日で政党間の駆け引きで状況が変わってきたこともあるので、補足的に書いておきます。先に挙げた労働組合の「連合」が裏で糸を引いたかのような報道もありますが、民進党党首の前原誠司氏が小池百合子氏の立ち上げた新党とまるまる合流するという流れになっています。

そうなると、民進党の中の自民党的な考え方に近い人達は自ら進んで新党に合流することだけは確かでしょう。当然ながら支援団体の「連合」も新党の支援に回るはずで、竹中労さんの言う「労働組合のヒモツキ」状態から逃れられるとホッとしている方もいるのではないでしょうか。

また、民進党が新党に合流する理論として、ここで羽仁五郎氏や大杉栄氏の言ったり書いたりしたことになぞらえたもっともらしい事を言っていますが、その言が本心からなのかそうではないかということは、選挙の終わった後に徐々に明らかになるでしょう。

新党が自民党の補完勢力であるとしたら、二大政党になるか大連立になるかはわかりませんが、自民党と新党がくっついて、徹底的に反体制派を潰しに来ることも考えられます。その時こそ、多くの人がどちらの制作がいいのかということを単純に比較して判断できるような選挙になるでしょう。残念ながら、今はまだその時ではないと言えると思います。

問題は、今の保守勢力に異議を申し立て批判する一同が、いかに我慢して将来の勝利のために地を這いながら地道な努力をすることができるかということにかかってくるのではないかと思います。選挙の時期になるとどうしても勝ち馬に乗って楽に勝ちたいと思ってしまうのは人情です。しかし、逆境の時に誰に従い何をしたかということは必ず後には報われると信じてやるしかないでしょう。

竹中労さんもあれだけ革命を夢見ながら事が成らずに終わってしまったわけですし、少なくとも歴史を紐解いた時に「悪宰相」だとか「平成の裏切り者」などと揶揄されないような行動を取っていただきたいと、良識ある方に向けて今後とも訴えていきたいです。