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「映画ファン」と「映画評論家」竹中労さんはどちら?

2017年のお正月である1月7日にNHK BSプレミアムで放送された、「たけしのこれがホントのニッポン芸能史」第9弾は「時代劇」でした。竹中労さんのことを好きな方は特に、時代劇の歴史とくれば、戦前からの流れにスポットを当てるものになるかと期待された方も私と同じようにいたかも知れませんが、結果的には見るのを後悔するほどひどいと私には感じられるような後味の悪い番組であるように感じることになりました(これ以降の内容についてもあくまで個人的な感想であることをここにお断りしておきます(^^;))。

それでも、司会のビートたけしさんが子供の頃に見た嵐寛寿郎の「鞍馬天狗」の話をして、大人も子供も嵐寛寿郎が馬に乗って緊迫の現場に駆けつけるシーンでは画面に向かって拍手をしたり声援を送ったりしていたという経験を話したのが唯一当時の映画館の雰囲気を私に味あわせてくれ、日本の時代劇の歴史を感じた一瞬でした。しかし戦前の映画で紹介したのは「雄呂血」のみと言っても過言ではなく、その後は早々とテレビ時代劇に「歴史」が移行していったのにはびっくりし、そして呆れました。

さらにゲストの高橋英樹氏について語るなら、「桃太郎侍」よりも「ぶらり信兵衛道場破り」だろうとか(^^;)、番組内の突っ込みどころはかなり多かったのですが、さらに呆れたのは番組の後半にありました。

現在、時代劇を再放送でなく放送しているのは、テレビ東京系のBSジャパンをのぞけばNHKしかないからなのか、時代劇の舞台裏ということで翌日放送だった大河ドラマの新シリーズ「おんな城主直虎」の舞台裏を出してくるなど、大河ドラマの直前PR番組に成り下がってしまったと私には感じられました。NHKの番組はアーカイブスとして後々まで見られるように保存してあるのですから、第8弾までは普通に日本の芸能史に光を当てて検証してきた番組の中にこうした「番宣」のための番組を挿入するというのはいかなる所存かと怒りだした人もいたかも知れません。

もし、新しい大河ドラマがこけてしまったら、この番組すら後々まで恥を晒すことになるかも知れないのに、よくこんな番組の作り方をしたなと個人的には思います。

逆に言うと、それだけまともに時代劇について語ることのできる人がNHK内部では番組制作の場において冷遇されていることも予想され、これでは今後NHKが作る時代劇はろくなものにはならないのではないかと新年早々から暗い気持ちになってしまった2017年のお正月でした。

竹中労さんと映画との関係も、ビートたけしさんと同じく嵐寛寿郎主演の「鞍馬天狗」に幼少の頃に出会ったことから始まりました。その銀幕上のスターとして崇め、奉っていた嵐寛寿郎氏のインタビューを取り、「鞍馬天狗のおじさんは」という本にまとめることになったというのも、その熱狂的なあこがれの延長線上にあると言えるでしょう。

竹中労さんご本人が「評論家」と呼ばれる事を嫌ったのはご存知の方も多いでしょうが、あくまでミーハーな映画ファンとして取材することで、一連の映画に関する著作が生み出されたとも考えられます。事務的に評論するのではなく、熱く映画について語りたいという竹中労さんのスタンスは、音楽でもそうですが映画についてもかなりのもので、そうしたファン気質を持ったままつき進んでいたところに面白さがあるのではないかと私には思えます。

竹中労さんの著作の中では名作と言われて久しい、嵐寛寿郎さんに取材した「鞍馬天狗のおじさんは」が昨年再版されているのをご存知でしょうか。写真などもふんだんに使われていて、当時の事を知らない方でも面白く読めるものに仕上がっています。竹中労さんの著作の中では珍しく、一般書店に注文を出せば購入できるものなので、まだ未読の方はぜひその世界に足を踏み入れてみることをおすすめします。このブログでは、今後とも竹中労さんの新刊本が発売された際には、できるだけその流れを追い掛けて、紹介できるようにアンテナを広げていきたいと思っていますので、どうぞよろしくお願いします。