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テレビ朝日「今夜、誕生!音楽チャンプ」はぬるすぎる?

アマチュアの歌手志望者や、プロの歌手でも現在低迷している方を多く出場させ、優勝者にスポットライトを当てるためのコンテスト番組といえば、古くからテレビを見ている方なら読売テレビの「全日本歌謡選手権」を思い出す方も少なくないと思います。2017年の秋から日曜夜にレギュラー放送されるテレビ朝日系「今夜、誕生!音楽チャンプ」が始まり、10月8日に第一回が放送されましたが、あくまで私が見た限りでは「全日本歌謡選手権」というよりも、イギリスのテレビオーディション番組「ブリテンズ・ゴット・タレント」の劣化版といった趣ではなかったかなと思います。

多くの番組を見た方も同じように感じられた事かも知れませんが、審査員が厳しい言い方で「個性を出せ」というならば、採点の内容の半分がカラオケ採点マシンによる「譜面通りに音を外さず歌う」という採点基準を重視するのはちょっと矛盾します。ちなみに、審査員は4人いて、採点マシンが100点を持ち、各々の審査員は25点しか持てません。

論外だと判断された出場者がいても、カラオケマシン対策をして高得点を出せば勝ち抜けてしまいかねませんし、初回の採点内容を見ても、明らかに人間の審査員だけで評価すれば順位が変わってしまう場合がありました。こういう審査方法ではいくらキラリと光る才能を人間の審査員が感じた出場者がいたとしても、緊張で音を外したら他の出場者でカラオケ歌唱に特化した人には点数で負けることになってしまい、とにかく無難に歌い切った人だけが残っていくだけではないでしょうか。テレビ東京「THEカラオケ☆バトル」のように、素人で歌のうまい人を発掘するような番組の場合は機械オンリーで競う方法でも面白いとは思うのですが。

もちろん、歌唱力を評価しないで審査員の気分だけで落とされてしまうケースというものはありえますし、番組終了後のネットコメントを見ると、出場者に常に厳しい物言いをする特定の審査員についての非難コメントが続出していることから、あくまで選考は平等と説明できるカラオケマシンの採点を外せないクレーム対策というテレビ局の社内事情というものが関係しているのかなとも思えます。極端な例としては、幼少期の美空ひばりさんが加藤和枝という本名でNHKのど自慢に出て笠置シヅ子の歌を完璧に歌いこなしたにも関わらず、鐘が鳴らなかった理由が「大人の歌を子供が歌ったから」という今では考えられない理由だったという、実際に起こった話が参考になるのかも知れません。

ただ、テレビというものはその向こう側に多くの視聴している人々がいるわけで、全ての出場者を平等に歌っているところを流してくれさえすれば、合格した人と比べて明らかに審査員の意図で落とされた人の方が魅力的だった場合は、表面的でない本質的な審査員批判の声もネットを中心にして出てくるでしょう。ただ、この点でもこの番組は明らかに出場者を平等には扱わず、一部の出場者の歌唱をダイジェストで流したりもしていました。

予選の様子をダイジェストで流すのなら問題ないでしょうが、同じ土俵で競うところに差が出たら、番組自体に見せたい人の押し売りを疑う事にもなります。少なくとも今からでも番組の方針として、時間の問題があるというなら放送を複数回に分けるか全ての出場者の放送分をワンコーラスに限定するとかすべきだと思います。

この番組についてのネットの反応をひろっていくと、一部の審査員の厳しすぎる物言いに対する批判とともに目立ったのは、ある出演者の審査員や番組を舐めているのでは? と思えるような生返事のような受け答えについての批判でした。ここではあえてその方の名前出しは控えますが、厳しい批評というのは愛情の裏返しというところもあるのに、そうした厳しい意見を聞いているのかいないのかわからないような受け答えというのは、テレビで放送されてしまえば本人への批判という形になって帰ってくることがわからないという点で本人が批判される点はあるでしょう。しかしその前に個人的に番組に問いたいのは、それこそ番組で出場者に審査員が問うていた言葉ではありませんが、

「あなた方はこの番組で何を目指しているのか?」

という事です。基本的に初回の出場者というのはいわゆる「過去の人」になってしまっていた歌手が、歌手として再び日の当たる場所へ出て行くためのワンステップというようなコンセプトを出していました。ただそれにしては批判を浴びた出演者以外にもテレビの画面を通して見た限りですが、真剣さが見えずにヘラヘラ笑っているばかりの人もいて、もし竹中労さんの出ていた「全日本歌謡選手権」なら、竹中さんが収録を途中で遮ぎるように大声を挙げて、審査の対象にすらならずその場から帰ってもらうような類の暴言を浴びせていたように思います。当然ネット上では「あの竹中労というのは偉そうに何様だ。自分で歌えるのか」というような非難が集中したかと思いますが(^^;)、少なくともそのくらいの事をやらないと、出演者が真剣に番組に臨んではくれないのではないかとも思うのです。

もしかしたら、番組スタッフが出演者の面々に「全日本歌謡選手権」ばりに厳しくやるからというコンセプトを説明しないで、「新たな一面をこの番組で出してみてください」というようなぬるい説明で現場に出している可能性もあるのではと思っています。もしそうしたぬるい雰囲気で出演交渉をしていた場合、むしろ番組の意図と出演者の意図にずれがあったことによって起こった部分もあったとしたら、安易に出演者のバッシングに結びつける前に、番組自体の存在意義というものをもう一度問い直した方がいいような気がします。

それこそ、「全日本歌謡選手権」のような番組が今の日本で成立しえなくなった理由というのは、プロダクションの力が強くなり過ぎて、どれだけ歌唱力があって魅力的な人材がいたとしても弱小プロダクションでは評価される事も難しいほど大手プロダクションの圧力が強いからに他なりません。こういった話は昔の芸能界に限った話ではなく、今でもあからさまに「差別」されたのではないか? とされる話題には事欠きません。何よりもこの番組自体、大手プロダクションのジャニーズ事務所がからむ『関ジャニ∞のTheモーツァルト 音楽王NO.1決定戦』から派生したような番組であるわけで、今後に期待するのは厳しいかも知れません。

(2017.11.20追記)

前日の11月19日に、第二回の放送を見させていただきました。前回の分は第一回の放送を見ての感想でありましたが、第二回目から1ブロック6人の予選を行ない、準決勝、決勝という流れで盛り上げて優勝者をデビューさせるということになるということがわかりました。ただ、前回の放送から変わった部分もあります。

まず、審査員を一部変更し、さらに前回比較的強い調子で出演者に対して厳し目な言葉を掛けた審査員の方も出ていましたが、第二回目については総じて荒々しい酷評すらなくなり、びっくりすることに、敗退した一人の出演者には「歌手もいいけどミュージカルに向いている」とその人に合った新たなステージまで紹介してあげるという優しさに溢れた話ばかりで、前回のような厳しさは影を潜めていました。これはもしかしたら、思いの外ネット上で反感が生じたので軌道修正したのか? とも思えてしまいました。

さらに、審査員が技術的な講評を行なった場合、ご丁寧にVTRで直前に歌った出演者を流し、どの部分のどの歌い方をどのように修正すればもっと良くなるということを出演者だけではなく、視聴者により分かりやすく見せるという演出がされていました。これは、オーディション番組としての面白さと、カラオケをうまく歌いたいと思っている視聴者のためのカラオケ上達番組としてテレビ東京の「カラオケ★バトル」との差別化を狙っているのかと思います。

ただそこにあるのはいかに多面的に視聴者からの支持を得るかというスタッフの思惑ばかりであり、本気で世の中に眠っている才能を掘り起こそうとしているのかという疑問も出てきてしまいます。

ネットでは合格者の中にプロの歌手がいたということで、アマチュアとは違うのだからプロは出さない方がいいというような声も見付けることができましたが、「プロ」だから全てが良いというわけではありません。むしろプロとして凝り固まった歌い方や考え方をしていて売れないからこそ、この番組にプロが出てきているととらえると、本気でスターになりたいなら、プロよりも才能を認められ敗北に追い込むくらいの人が出てこないと面白くないでしょう。

どちらにしても、この番組では優勝したとしても、芸能事務所の中で「歌」が必要な時に駆り出されてこき使われるだけの歌い手としてのニーズを補充するようになってしまう可能性すらあります。今はYouTubeで自分の才能を発信することもできるわけですから、出演される方もこうしたテレビ出演の機会をうまく使って、自分のYouTubeチャンネルに人々を誘導するための手段として使うように考えた方がいいのかも知れません。