2016年は、10月に山梨県甲府市で竹中労さん没後25年ということで多くの人を集めてのシンポジウムが開かれました。その様子については様々な所で活字になったりネット上に感想もちらほら挙がっていますが、タレントの水道橋博士(敬称は略させていただきます)が当日の飛び込みのような形でパネリストとして参加したことで、大いに注目を集めました。
その席上において、少々以前の記憶が曖昧になっている鈴木邦男氏の発言を的確にフォローしたり、当日水道橋博士を呼んだ女優の樹木希林さんから竹中労さんの評伝を書けと言われ、当初は断っていたものの会場の雰囲気にほだされたのかすぐではないにしろ書く方向でという感じで宣言をなさったように私には見えました。
シンポジウムには水道橋博士がバイブルのように読まれているのかと思われたみき書房版の「ルポ・ライター事始」に沢山の付箋を挟んだものを持ち込み、その思いの丈を真剣に話され、さらには感極まったかと思われるような一瞬もありました。やはり多くの人を前にして話したり議論をされたりする方は、下調べもちゃんとして日頃の勉強も欠かさないのだろうなとその時は思いました。
その後しばらくして、水道橋博士の姿をテレビで見る機会がありました。平日の午前中にNHK BSプレミアムで放送されている過去の番組を紹介する「プレミアムカフェ」という番組で、あの照屋林助さんを特集した番組「ハイビジョン特集 沖縄 笑いの巨人伝」の再放送がありました。
その週は「笑い」をキーワードに日ごとに過去の番組を放送していたのですが、お笑いということでなのか、番組の最初と最後にNHKのアナウンサーと一緒に出てくるゲストが水道橋博士でした。
放送日と収録日の関係があるので、恐らく竹中労さんのシンポジウムより前の収録であることが感じられましたが、水道橋博士は以前から事あるごとに竹中労さんについての発言をメディアでしていましたし、何といっても沖縄の島唄(THE BOOMの曲名ではなく奄美や沖縄地方の民謡を総称した言葉)をレコーダーによって収集していたことが竹中労さんの奄美・沖縄のレコードを出された仕事と共通します。さらに、林助さんが大統領だった「コザ独立国」では、竹中労さんは鎌倉大使(当時は神奈川県鎌倉市に竹中労さんが住んでいたことからの命名)も名誉職ではあるもののされているほどの関係があるので、水道橋博士が何を言うのか、ちょっと期待しつつ番組終わりのトークを聞いたのですが、そこで水道橋博士の口から出てきた言葉に大ゲサではなく、しばし唖然としてしまいました。
開口一番出た話が、「島唄」という言葉について、水道橋博士はそれまでTHE BOOMの曲名だと思っていたと発言し、沖縄民謡全般のことを島唄ということにびっくりしていたという話でした。さらに、番組最後の方に出てきた現代の琉球フェスティバルにおいて、演者が聴衆と一緒にカチャーシーを踊る姿を真似るように両手を上げて踊る仕草を見せて、それを「エイサー」と言ったのにはさらにびっくりしました。
普通に考えると水道橋博士には全く沖縄や奄美(当然宮古や八重山にも)に関する知識が全くなく、竹中労さんが沖縄で何をやってきたのかということを書き記す以前の状態なのではないかとコアな竹中労ファンに思われてしまいかねません。しかし、水道橋博士はお笑い芸人であり、受けを狙ってわざと無知を決め込んだのか? という疑念も拭うことはできません。
それだけ甲府市でのシンポジウムの時には竹中労さんの著作を再版して欲しいという発言もしながら竹中労さんについても相当熱く語ったのですから、まさか竹中労さんをあれだけリスペクトする人が、後年文庫化もされた「琉球共和国」をはじめとする島唄に関する著作があることすらも知らなかったような態度を取ることは何か理由があるのではないかと私には思えるのです。
このエントリーは恐らく2016年最後のエントリーになると思いますので、2016年のうちにこのもやもやした想いだけは書き記しておこうと思いまして、こんな文章を書かせていただきました。個人的には水道橋博士の書く竹中労さんの評伝には大変期待しています。私のちょっとした危惧が杞憂に終わるように祈りまして2016年の更新を終わらせていただきます。
(追記)
私自身は芸能界とは全く縁もゆかりもないので、詳しい内情は全くわからない中で上記の内容を書かせていただいたのですが、最近のテレビを見ていて水道橋博士の言動と似たような感想を持った事がありました。
日本テレビの「月曜から夜ふかし」という人気番組がありますが、番組名の通りつい夜ふかしして見てしまうのですが、その中で紹介された千葉のスーパースター「ジャガー」さんと語る女性アシスタントがすごい! というあおり文句に興味を持って見ていたところ、その女性アシスタントとは業界では十分に知られていると思われるフリーキャスターでタレントの田中美和子さんだったのでした。
彼女については改めてここで語るまでもなく、ニッポン放送のお昼の生ワイド番組「鶴光の噂のゴールデンアワー」で、笑福亭鶴光さんの相手役を立派に務めるだけではなく、その上を行っているのではないかと思えるくらい面白い話術で番組を離れた今でも熱狂的な信者がいます。
私自身はラジオで聞いていただけでしたが、実際にテレビの画面でジャガーさんと対時する中できちんとテレビカメラを意識してしゃべる姿は、ラジオの時と比べても全く衰えていないと感心することしきりだったのですが、番組のMCである二人は全くこの事を知らないという体で番組はそのまま進行して終わってしまったのでありました。
考えてみれば、そうしたウンチクのような知識をインサートしても若年層には何だかわからないですし、単にジャガーさんの隣で喋っていた女性が面白いということでいいのかも知れませんが、面白さというのはどういう経歴から生まれたのかという事を知れば、それはそれで注目が集まるしいい事もあるのではないかなと思うのですが。それとももしかしたら、知っているのに敢えてその内容を人に知らせないで情報がネットから上がって盛り上がるのを待つような手法があるのかも知れませんね。
ちなみに、先日集英社のkotobaという月刊誌で水道橋博士のインタビュー記事が載っていて、自分の意志として本当に竹中労さんの評伝を書いてみたいということを活字にしていました。想いを活字にするということは相当な決意だと思うので、改めて期待したいものですね。
(2017.5.16)